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快樂する仏蘭西映画とか

ジャック・ドレー『友よ静かに死ね』

2022.05.07 ジャック・ドレー『友よ静かに死ね』 1976 LE GANG
 原題は『ギャング』。
 同じ邦題の作品『ギャング』(1966)があった。監督はJ・P・メルヴィル。原作はジョゼ・ジョヴァンニ『おとしまえをつけろ』(1958)。
 タイトル以上に、この映画の成立には、ややこしい裏話がありそうだ。
 話は、戦後すぐのフランス。実在のギャングスタ、ピエール・ルートレル(通称気狂いピエロ)をモデルにした。原作は未見だが、映画の冒頭には「実在の人物とは関係ない」という但し書きがわざわざ掲げられている。
 ルートレルを主人公にした小説は、すでにジョヴァンニによって書かれている。『気ちがいピエロ』(1959)。主役は一人ではなく、ルートレルと同格の無法者との不思議な友情を謳いあげた。
 ジョヴァンニは、この自作を原作とした監督作品『ル・ジタン』(1975)で、ルートレルのキャラクターを、別人物にさしかえている。通称気狂いピエロをジプシー(ロマ族)のギャングスタに置き換えた。この改作の小説版は邦訳もされている。柴田錬三郎訳の『ル・ジタン 犯罪者たち』だ。ジタンを演じるのは、同じアラン・ドロン。
 『友よ静かに死ね』が、モデル問題を曖昧にせざるをえなかったのは、こうした事情があったからか。ドロンは「気狂いピエロ」であるけれど別キャラクターのヒーローを二度も演じ分けねばならなかった。
 この映画の場合、戦時のレジスタンス派とコラボ(フランス・ゲシュタポ)が戦後にギャングスタ・チームを組むとか、キャバレーで進駐軍兵士と乱闘するとか、深刻になりかける場面を、さらっと流すにとどまっている。ドロンの「気狂い」ぶりが浮いてしまった。
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 ゴダールの『気狂いピエロ』は、以上のトリビアルとはまったく関係ない。ただベルモンドこそが、このヒーロー像にふさわしいことを証明するような作品だ。
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